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自作紹介「チグの家」

自立するトリッパー
自立するトリッパー

(※内容に関するネタバレはありません)

発表から二ヶ月近く経過しているのに公式サイトで紹介していなかったことに気付いて愕然としている。
紹介します。
小説トリッパー2025年春季号に新作「チグの家」が掲載されました。
今回もあらすじが難しい。
20代女子であるデザイナーの由良が恋人を追って流れ着いた街、そこでカフェを経営している「船長」と呼ばれる40代の男は彼女にカフェのリニューアルを依頼する。古い大きなレストランを一部だけ改装してカフェにしたその店の奥の方には、何やら不穏な暗がりがあるのだが、やがて彼女はその暗がりの中へと赴き……
という、全然何の話か分からない話。

のわりに、ありがたいことに、既にあちこちで好評をいただいております。
が、次回もこんなものが書ける自信はまったくない。
なぜならこの作品には着想からかれこれ12年はかけたからだ。
最初の数年は、「まだ今の自分の力では書けない」と思って物語が立ち上がってくるのを押さえつけていた。
5年くらい経ってから、試しに一度冒頭を書いてみたらやっぱりダメで、消して、また1年後にちょっと書いてみて、消して、また書いて、直して、書いて直して書いて直して直して直して、今に至る。
その間にも物語世界と付き合う歳月はどんどん長くなり、12年である。12年という長い時間、僕は由良と一緒に生きてきたのだ。
そんな人物があと何人もいるわけがない。こんな物語は二度と書けない。
という、作者側からすればそういう作品ですが、読者からすればそんな事情はどうでもいいので、何も気にせずに気軽に読んでみてください。
これまでの僕の作品の通り、今回もサクサク読めると思います。

あ、せっかくこのブログを覗いてくれている人におまけ情報をお伝えしておくと、作中に出てくる灯台は現存するし、マエダさんの家も灯台のすぐ側に現存します。
夜の灯台のシーンを描くにあたり、それを想像でやってしまうことも可能だったけれど、やっぱり思い直して車を走らせ実際の灯台を見に行った僕は、由良と同じように、その場に立ちすくんでしまった。
闇の中の灯台は、僕の想像力をはるかに超えて圧倒的だった。

category:ブログ  |  2025.05.09

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